【連載小説〜仕事がすべてだと思っていた〜】「生きる意味ってなんだろう」

コラム

いつの間にか、私の人生の目的は”仕事の成功”に置かれていた。もしかしたら、子どもの頃書かされた、”将来の夢”というタイトルの入った真っ白な紙に、なぜだかみんな職業名を書かなければいけないという無言の圧力を感じたことがきっかけだったのかもしれない。

子どもながらに知っている職業名なんてたかが知れていて、みんながパン屋さんとか、お医者さんとか、アイドルなんて可愛らしいキラキラした名前を挙げていく中、私はいつも、世界平和と書いていた。

今思えば、自分より不幸そうな人を助けることで、自分の存在意義を確かめたかったのかもしれない。それくらい私は昔から、強く誰かに承認されたいと思って生きてきた。

そんな私が選んだ職業は、海外転勤の可能性があり、バリバリ結果を出すことを求められる、外資系大手の営業職。毎日朝から晩まで働いて、自分を大切にする時間なんてほぼ取れなくて、気がついたらあっという間に入社して3年が過ぎようとしていた。

今日も残業か・・・。毎日仕事に夢中で、気がついたら時計は22時半。それでも終わりの見えない業務量に身震いしながら、ゆっくり帰路につく。

少しずつ結果も出てきた。任される仕事の責任もどんどん大きくなって、周りからの評価も受けながら、ある程度の出世コースに乗っていることも自負している。でも最近ふとした瞬間、すべてを投げ出してしまいたくなる。

「仕事のエネルギーが足りないから」そう言って毎日毎日貪るようにご飯を食べてきた体は気づいたら20代とは思えないようなぶよぶよのだらしない体に。顔中にできるニキビは年中消えることなくポツポツしていて、毎朝必死でコンシーラーをぬりたくる。「人を本気で好きになる」ということが未だにわからないまま、都合の良い関係の人たちに囲まれて、心の虚しさは消えることがない。

「これでいいのかなぁ」

そんな一言が頭の中にちらっと現れては、急いで打ち消す日々。今日も頭を空っぽにするため、大して読みたくもない漫画を読んで、音楽を耳にあて、家に着いた。

ーSNSをスクロールしている時に見つけた、「生きる意味」の文字に

ベッドに入っても尚手放せないスマホ。読みたいわけではないけれど、指は自然とスクロールしていく。ふと目に飛び込んできた、「生きる意味」という文字。全然知らない” 勝手な先生”という人のツイートだった。

どうせみんな死ぬだけ。どうせ仕事も遊びも人間がつくった暇つぶし。生きる意味なんて決まってないんだから、今日をどうすごすかは自分で決めて、何が悪い。

とてもネガティブなのに、開き直って逆にポジティブなそのコメントに、なんだか少しほっとした。

だから俺は今夜もわざわざ平塚まで星を見に来た。今から帰ったら家につくのは朝4時。明日の出勤は朝7時。余裕だ!!

「いや、朝7時出社の前に、4時まで星見にいくとかありえないでしょ。」でもなんだかその無邪気なくだらなさに笑えてくる。こんな生き方ができたら、確かに毎日すごく楽しそう。

何気なしに私は、”勝手な先生”をフォローして、そっとスマホを閉じた。

朝起きて、いつものようにバタバタ準備をしている中、ふとそういえば昨日の人どうなったかな、と気になってTwitterを開く。

“勝手な先生”のページを見に行くと、早速朝のツイートが更新されていた。

朝ごはんはどうしても食べたくなって、朝マック!みんな気づいてないけど、マックのコーヒーってめっちゃ美味しいんだよ!さあ、美味しい朝ごはん食べて、今日も元気に出発だ〜!

あまりのポジティブさに思わず吹き出す。昨日あれだけ夜遅くまで起きてたはずなのに、早速朝からマック食べてるんかい。でも、その時食べたいものをわざわざ自分のために食べにいくことなんて、私最近あったっけ。なんだかんだいつも、食べたいものより、効率の良いものしか選んでなかったような気がする。今日は冷たいアイスコーヒーでも買っていこうかな。

ーコーヒー一杯が午前中の幸福度をちょっぴり上げた

「あれ、さおりさんが朝ごはん食べてるなんて珍しいね」

「今日はちょっと、コーヒーが飲みたくて。」

「そこのコーヒー美味しいよね。僕もよく買ってるよ。」

「そうなんですね!やっぱり缶コーヒーとは全然違いますね。」

「一度味を知ると、もう缶には戻れなくなるよ。今度そこのお店のオススメのクッキーも買ってきてあげる。」

「えー!嬉しい。ありがとうございます。」

入社当初から憧れている清水さんに声をかけてもらえて、さらにテンションは上がる。たった15分朝ごはんに丁寧に時間をかけるだけで、こんなに心が満たされるなんて、思ってもみなかった。

「こういう時間が少しずつ増えていったら、もっと毎日が楽しくなるんじゃないかしら。」

そんな胸の高鳴りを感じながら、いつものメールチェックに手をかけた。

人生の変化の一歩を踏み出したさおり。次回は、また新しい”勝手な先生”のツイートで、さらに新しい発見が。

▶︎執筆・大原光保子

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