【連載小説〜仕事がすべてだと思っていた〜】「仕事=苦労すべきもの。」

いつの間にか、「仕事の成功」が人生の目的になっていたさおり。しかし、無邪気に人生を楽しむ"勝手な先生"という人物をTwitter上で見つけ、自分の概念にはなかった人生の楽しみ方を知ることで、少し人生が変化する兆しを感じ始めていた。

ー効率がすべて。タスク処理に忙殺される毎日。


メールチェックが始まると、一気にスイッチが仕事オンモードに入る。1分1秒でも無駄をなくし、できる限り機械的に、アウトプットを出していく。

仕事を始めた頃は、いつもクライアント様の夢を叶えることだけを考えていた。答えのないゴールに向かって、毎日毎日頭をひねり、何十時間もかけて作った企画書が5分のプレゼンで破棄されたり、クライアント様とケンカになるくらい想いをぶつけ合うこともあった。

でも、だんだん気がついてきた。

実態のない大きな目標を描いても、そのほとんどは叶えられないということに。

「これまでの優秀な先輩方が成し得なかったことを、私なんかに超えられるわけがない。できない事に一生懸命になっても疲れるだけなら、求められていることより少し上回ることをして、スピードを上げる方がいいのかも。」

そして少しずつ、仕事中に自分の感情が入ることはなくなり、頭を使うことばかりが先行するようになった。


ー昔は一番好きだった、熱い夢を口にするクライアント様


「こんにちは〜」

「こんにちは。今日もありがとね。さあ座って座って。」

入社してから一番長く担当する、K社様のアポイント。ここの社長は、ビジョンがとっても大きくて、抽象的な夢ばかりを語っている。昔はそんな社長に惚れ込んで、その夢をどうやったら一緒に叶えられるかを考えて、ぶつかることもたくさんあったが、最近は問題なくスムーズに進行することだけを考えて、仕事をするようになってしまった。

でも実際、夢ばかりを語っても前には進めないから、それがこの社長にとっても良いことなんだと思う。

「今日はいつも通り、先月の結果を振り返らせていただきます。」

「先月はダメダメ。もう御社にお金払えないくらいだよ。」

「そうだったんですね。私どもの方で見させていただいているデータによると、来客数は校長だったようなのですが、売り上げは減少してしまったのでしょうか。」

「そうなんだよ。売り上げが上がらないと意味がないからね。うちは世界一の調理器具をつくっているんだから、もっとその良さを伝えてくれないと。」

「大変申し訳ございません。」

(世界一なんて、自分で言ってるだけじゃない。どうやってなだめようかしら。)


「御社のためを思って言いますが、今、ITを用いた器具や、デザイン性に優れた器具がどんどん出てきている中で、調理器具の中で世界一になるのは難しいと思います。それよりも、御社に合った分野で、まずは日本一を目指しませんか?」

「それは、うちの商品じゃ世界一にはなれない、ということか...?」

「いえ、決してそういうわけではないのですが、そもそも世界一になることが難しい世の中にはなっていると思います。」

「そうか...。」

社長は少し落ち込んだ表情を見せた後、冷静モードに戻って、簡潔に今日の話は終了した。


ー帰り道で悩む、これでいいんだっけ?という名の罪悪感


どっと疲労感に襲われながら、今日のアポイントを振り返る。悲しそうだったなぁ、社長。昔は全然結果に繋がらなかったけど、毎回のアポイントですごく生き生きしてた気がする。

理想と現実のバランスに悩みながら、そっとTwitterを開く。目に飛び込んできたのは、やはり"勝手な先生"。


結果なんてどうでもいい。やってる過程が楽しいからやってるだけ。僕にとっては、仕事もカラオケもぶんぶん独楽も全部一緒。点数とか結果じゃなくて、それをやるのが楽しいからやってる。というわけで、今から僕は天下の昼休憩カラオケに!!!



一人でカラオケ・・・?しかも昼休憩・・・?やっぱり変な人だ。
でもそっか。結果じゃなくて、過程を楽しむ気持ちなんて、すっかり忘れていた。目に見える数字ばかり追いかけ始めてから、仕事が一気に"仕事"に成り下がった気がする。

でもその前までは、純粋にやってる事が楽しかったし、楽しい未来を自分で思い描くようにしていた。

今度K社様には、いつもの数字のレポート以外に、ワクワクするような提案を持っていってみようかな。

さおりはまた少し、前よりも自分が明るい気分になった事を感じた。


"勝手な先生"のツイートから新鮮な気持ちを少しずつ感じ始めるさおり。次回は、楽しむことより、体力の回復を優先する休日の小さな変化のお話。


▶︎執筆・大原光保子

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